元2025 9月 日本
・集団構成:未破裂が211/252人(約84%)、破裂が41/252人であった(瘤数でも未破裂が222/264瘤)。・破裂群:年齢群間で予後(退院時mRS)・合併症・再治療・再出血に有意差なし。・未破裂群:高齢では完全閉塞率が低く(70.1%→54.8%)、残存瘤率が高く(3.4%→11.9%)、DWI高信号スポットが多い(平均3.0→4.8)一方、周術期合併症、退院時mRS3–5・6、再治療率に差はなく、術後破裂はゼロ。追加解析ではDWI陽性の分岐年齢が65歳であった。
未破裂脳動脈瘤は、全体として破裂イベントが少ない。 サイズ・部位・形状でリスクは層別化され、前方循環の小型瘤では年率がきわめて低いことが大規模コホートで示されている。したがって「まず破裂しない」という直感は、少なくとも多数派の未破裂瘤に関して現実に近い表現である(ただしゼロではない)。
治療vs非治療のRCTはTEAM試験が企図されたが、中止となった。 TEAMは未破裂瘤をコイル治療群と経過観察群に無作為化する世界的試みであったが、登録不良(80例)により2009年に停止された。低イベント率ゆえ必要症例数が膨大になり、臨床側のエキポイズ維持も難しかったことが背景である。ゆえに、未破裂瘤の介入ベネフィットは今なお厳密なRCTでは証明されていない。
高齢で余命が限られる患者に画一的に介入を勧めるのは、ガイドラインの精神と合致しない。 AHA/ASA指針は、小型・前方循環・無症候などの低リスクUIAでは経過観察が妥当であり、手技リスクや患者の余命・QOLを総合して判断すべきとする。とりわけ高齢や併存症が強い場合、保守的管理が合理的選択となりうる。
mRS3–5に差がないことをもって「安全・有効」と断ずるのは論理として弱い。 未破裂患者の多くは術前mRS0であり、入院時点の機能障害がない集団に粗い機能転帰指標を当てても予防効果の実相は捉えにくい。提示の大阪の後ろ向き研究でも、未破裂高齢群で完全閉塞率低下・DWI高信号増という「その場の不利」がありつつ、退院時mRSや再治療率に差がないことから「安全・有効」と結んでいるが、これは安全性示唆の域であって真の有効性(破裂抑止)証明ではない。未治療対照が欠ける以上、過大解釈は避けるべきである。
結語:「未破裂はまず破裂しない」「TEAMは差がつけられず頓挫」「高齢・余命短では観察が筋」「mRS3–5で“有効”は拙速」——この四点は、現在得られるエビデンスと整合的である。臨床判断は自然歴リスク(PHASES等)×手技リスク×余命の同一時間軸で行うべきである。