元2025 7月 日本
脳卒中になると、飲み込む力が弱くなってしまうことがある。その結果、食べ物や飲み物が気管に入ってしまい、「誤嚥性肺炎」を起こすリスクが高まる。これを防ぐために、「とろみ」をつけた水やゼリー状の食べ物がよく使われている。
ただし、実際の現場では「ゼリーは気道に入るから危ない」という理由で避けられることも多い。しかし、それが本当に正しい判断なのかどうかを調べた研究はあまりない。とくに日本のJDD2021(摂食嚥下のガイドライン)ではゼリー(コード0j)ととろみ水(コード0t)が嚥下訓練に使われているが、その違いがどのように嚥下に影響するのかははっきりしていない。
そこで、「ゼリー」と「とろみ水」が飲み込みの動きにどう影響するのかを、VF検査(飲み込む様子をレントゲンで見る方法)でくわしくしらべてみたそうな。
対象となったのは、発症してから1週間以内の初めての脳卒中患者で、比較的飲み込みが良好な人たちである。重い意識障害や認知症がないことにくわえて、水を飲んだり唾を飲み込んだりする簡単なテストに合格し、誤嚥のリスクが低いと判断された人だけが参加した。
3種類の食形態を使って比較した:
* ごく普通の水(薄い液体 : thin liquid)
* とろみ剤を加えてかなりドロッとさせた「とろみ水」
* 市販の嚥下ゼリー粉で作った「ゼリー」
それぞれを少量ずつ、順番に飲み込んでもらい、VF(ビデオ嚥下造影)で記録された画像を分析した。
とくに注目したのは以下の3つの時間的な指標である:
咽頭通過時間(PTT):飲み込んだものが喉を通過するまでの時間
咽頭遅延時間(PDT):飲み込みの反射が起こるまでの遅れ
喉頭挙上遅延時間(LEDT):飲み物が喉の奥(梨状窩)に届いてから、喉頭(のどぼとけのあたり)が上に動いて気道をふさぐまでの時間
→ このLEDTが長いと、飲み物が先に気道に入ってしまうことがあり、誤嚥の危険が高まる。
次のようになった。
・全体の13.7%(175人中24人)が、「薄い水」を飲んだときに誤嚥を起こした。この誤嚥した人たちは、そうでない人と比べて喉頭が持ち上がるまでの反応(LEDT)が明らかに遅かった。・一方、誤嚥をしなかった人たちについて3種類の飲み物を比較したところ、ゼリーには以下のような特徴があった:
* 飲み込むとき、喉の入口あたりで一瞬とどまり、そこで飲み込み反射を起こす* そのあと、喉頭がしっかり閉じたのを確認するようにして、すばやく食道へと流れ込む* とろみ水や普通の水よりも、喉頭が動き始めるタイミング(LEDT)が早く、誤嚥のリスクが低い傾向が見られた
ゼリーは、「喉の反応を待ってから動き出す」という、嚥下において理想的なタイミングを自然に作ってくれる食形態であることがわかった。これに対し、薄い水は喉頭が動く前にどんどん落ちてしまうため、誤嚥しやすいという傾向が見られた。
つまり、「ゼリーは危ないから避けるべき」という考え方は、すべてのケースに当てはまるわけではなく、むしろ状況によってはとろみ水よりも安全な選択肢になりうる、
というおはなし。
感想:
『ゼリーと薄い水の中間がとろみ状態なわけで、それぞれを具体的にはどのように使分ければいいの?』
以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓
その問いは、まさに嚥下リハビリの核心である。
ゼリー・とろみ・薄い水の三者は、「物性(どれくらい流れるか/とどまるか)」の違いにより、喉の機能状態に応じて使い分ける必要がある。
ここでは、それぞれの特徴をふまえた上で、具体的な使い分けの指針を提示する。
🧭 まず、三者の特徴をざっくり整理:
| 食形態 | 物性の位置づけ | 特徴 | リスク | 適する状態 |
|---|---|---|---|---|
| 薄い水 | 最も流動性が高い | サラサラ、口当たりよい | 喉頭が動く前に落ちやすい → 誤嚥高リスク | 嚥下機能がほぼ正常、またはVFで問題ないと確認された人 |
| とろみ液 | 中間的(粘性あり) | ゆっくり流れる、飲み込みやすい | 粘度によっては喉に残りやすい | ある程度反射はあるがタイミングが微妙な人、むせる傾向がある人 |
| ゼリー | 流れず、まとまりあり | とどまる→反射後に一気に通る | 喉の反射が起こらなければ停滞→誤嚥の恐れ | 喉頭挙上のタイミングが遅れている人、反射が比較的保たれている人 |
🧪 それぞれの具体的な使い分け例
✅ ゼリーを使うと良いケース
- 喉頭挙上が遅れがちな人(LEDTがやや延びている)
- VFで「喉頭閉鎖後に通る流れ」が確認された人
- 「飲み込むタイミングを“待ってくれる”食形態が必要」な人
- 食塊が流れ落ちるとすぐむせる人
- RSST(反復唾液嚥下テスト)ができるが水ではむせる人
✅ とろみ液を使うと良いケース
- むせることはあるが、嚥下反射そのものは起きている人
- 水では早すぎ、ゼリーでは遅すぎると感じる人
- 一口量や飲み方にばらつきがある人(液体の調整がしやすいため)
- 嚥下はできるが認知がやや低下していて、食形態を理解できない人
✅ 薄い水を使ってもいいケース
- VFで誤嚥がないことが確認されている人
- 過去にゼリーやとろみで訓練後、水に戻してもむせない状態まで回復した人
- 誤嚥歴がない健康高齢者(←ただし年齢的に油断は禁物)
🔍 ワンポイント注意:
- ゼリーは「喉の反射を引き出す起爆剤」
→ 反射が起きれば理想的に通るが、起きなければ停滞してリスクになる。 - とろみ液は「嚥下の補助輪」
→ 食塊が喉にゆっくり届くので、反射が起きるまでの時間稼ぎができるが、とろみの調整が雑だと残留する。 - 薄い水は「最終段階の訓練目標」
→ 嚥下が確実にコントロールできるようになってから使う。
🧠 まとめ:使い分けの判断基準3ポイント
- 喉頭挙上(LEDT)が遅い人 → ゼリー優位
- 誤嚥はしていないがむせやすい人 → とろみ液
- すでに回復していて問題なし → 水も可
