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2025年6月30日

運動が健康を壊す──エリートアスリートの心房細動と脳卒中リスク

2025  6月  オーストラリア


心房細動(AF)は脳卒中の重要な原因のひとつであり、その予防は脳卒中リスク管理において極めて重要である。一般的に心房細動は高血圧や糖尿病、高齢などが危険因子とされるが、近年、過度の持久系スポーツ歴が心房細動のリスクを高めるとの報告が相次いでいる。

特に「元エリートアスリート」という集団が、一般人と比較してどの程度リスクが高いのか、またそれが遺伝によるものか、環境(運動負荷)によるものかを明確にするべくくわしくしらべてみたそうな。



かつて国際大会レベルで活躍した元世界級ボート選手121名(45〜80歳)を対象とし、年齢と性別を一致させた一般集団(UK Biobankデータベース)11,495名と比較した。評価には心電図、ホルター心電図、心臓MRI、および遺伝子解析(心筋症関連の稀な遺伝子変異と心房細動ポリジェニックリスクスコア=AF-PRS)を用いた。また4年間の追跡により、新たに心房細動を発症したかどうかも調べた。



次のようになった。

・元ボート選手の21.5%が心房細動を有しており、これは一般集団(3.2%)の約7倍であった。

・追跡調査でも、4年間で新たに心房細動を発症した割合が一般集団より2.8倍高かった。

・脳卒中リスクは3.0倍だった。

・心臓MRIでは、選手たちは心臓の構造(特に左心室容積)や電気的特性(心拍の遅さ、電気信号伝導の延長)において明らかなリモデリングを示していた。

### 遺伝的要因の詳細

本研究では、「心房細動の原因は遺伝か?環境か?」という問いに対し、2種類の“遺伝”の可能性を検討した。

#### 1. 稀な心筋症関連の遺伝子変異

これは心臓そのものに異常を起こす病的遺伝子(例:TTN、JUP、PKP2など)であり、重篤な心筋症を引き起こすことがある。だが、113名中3名(2.7%)のみがこれらの変異を持っており、AFとの関連性は確認されなかった。すなわち、この集団において心房細動の主因は「遺伝的心筋症」ではないと考えられる。

#### 2. AF-PRS(心房細動ポリジェニックリスクスコア)

これは数百の軽微な遺伝的変異の積み重ねによって「なりやすさ」を評価する指標である。各変異は単独では無力であるが、集積すると「心房細動になりやすい体質」となる。本研究では、AF-PRSが高い者ほどAFの発症リスクが高く、特にアスリートでは4倍の発症リスクが確認された。

つまり、心房細動の遺伝的背景は、心筋症という重い遺伝病ではなく、複数の軽微な変異の累積(ポリジェニック効果)による“体質”が主であり、そこに持久系スポーツという環境的負荷が加わった結果といえる。


元エリート持久系アスリートでは、心臓の構造的・電気的リモデリングにより、一般集団よりも顕著に高い心房細動リスクを示した。これは遺伝よりも運動負荷の蓄積による環境要因が主である可能性が高い。また、高AF-PRSを有する者では発症率がさらに高まっており、遺伝的素因との相乗効果も示唆された。したがって、脳卒中リスク管理の観点からも、激しい運動歴のある中高年者や高AF-PRSを有する者には、心房細動の早期発見および予防的対応が望まれる、


というおはなし。

元アスリートの心房細動



感想:

『心臓に不可逆的構造変化がおきるほどに命を削って競技していたってことね。』



以下、医師国家試験正答率98%のAIの回答コピペ↓



まさにその通りである。
この論文は、表面的には「AFのリスク評価」だが、裏にある本質的なメッセージは以下のように読み取れる。


🫀「強くなりすぎた心臓は、脆くなった心臓でもある」

  • 元エリートアスリートたちは、一時的な勝利や記録のために、心臓の構造そのものを変えてしまうほどの負荷をかけていた
  • そしてその変化は、引退後何十年経っても“戻らない”──これが「不可逆的リモデリング」。
  • 心臓は鍛えれば鍛えるほど強くなると思われがちだが、臓器としての“しなやかさ”や電気のリズムを失ってしまえば、かえって不安定になる

⌛これは“老い”ではなく“代償”である

このAFの高リスクは、単なる「加齢」や「遺伝」ではなく、本人が選んだ努力の結果、積み重ねた代償として現れている。

  • 競技パフォーマンスを極限まで高めた結果、心臓は一種の“職業病”を抱えてしまった
  • これは肉体の「栄光と崩壊の同居」を見せる、非常に象徴的な現象である。

🧭 スポーツの価値を問い直す視点にもなりうる

「運動は健康に良い」という常識は、この研究の前では条件付きの真理となる。

  • 過度な運動は、薬と同じく“投与量”によって毒にもなる
  • そしてその毒性は、老後になってようやく発現する。

この研究は、ただのAFリスク研究ではない。
「身体の限界を超えるとはどういうことか」を、最も根源的な臓器を通して、静かに語っている。




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