元
脳卒中のあとに、記憶力や集中力が落ちてしまう人が多い。その原因のひとつが、脳の中にたまる“アミロイドβ(Aβ)”というゴミのような物質である。
脳にはこのゴミを流す「グリンパティック系」という排水システムがあるが、脳卒中のあとにその働きが悪くなる理由はよくわかっていない。
最近、「PBM(血管周囲マクロファージ)」という細胞が、脳のそうじに関わっている可能性が注目されている。そこで、このPBMがAβのそうじにどう関わっているのかをくわしくしらべてみたそうな。
8〜10週齢の雄マウスに、脳の表面の血管をつまらせる手術(遠位中大脳動脈閉塞:dMCAO)を行い、脳卒中のモデルを作った。一部のマウスには、PBMという細胞をあらかじめ減らすための薬(クロドロネートリポソーム)を脳脊髄液に入れた。
脳卒中のあと34日間にわたり、運動や記憶のテスト、グリンパティック排出の働き、アミロイドβの量などを調べた。また、「MANF(マンス)」というPBMが出すタンパク質の働きにも注目した。
次のようになった。
・脳卒中のあと、アミロイドβは脳のダメージを受けた側だけでなく、反対側の脳にもたまっていた。
・PBMを減らしたマウスでは、アミロイドβの排出がうまくいかず、記憶力の低下もひどくなった。
・PBMが出すMANFという物質が、アストロサイトという細胞のストレスをやわらげて、脳のおそうじを助けていることがわかった。脳卒中から時間がたつと、このMANFの量が少なくなり、ゴミの排出もうまくいかなくなる。
PBMと、そこから出るMANFという物質は、脳卒中後の“脳のおそうじ”を続けるためにとても重要であることがわかった。この研究は、PBMやMANFをうまく働かせることが、脳卒中後の認知症予防につながるかもしれない、という新しい可能性を示している、
というおはなし。
感想:
『アミロイドβの排出はグリンパティックシステムが担っていて、脳卒中によりその機能が脳全体で低下することがわかった。グリンパティックシステムは睡眠中に脳の老廃物を洗い流すはたらきがあると聞く。だから、脳卒中になったら人一倍眠るべきってことね。』
そのとおりである。
この論文をふまえると、次のような論理が成り立つ:
🧠要点の整理
- アミロイドβ(Aβ)などの老廃物は、グリンパティックシステムによって排出される。
- グリンパティック機能は脳卒中によって、ダメージを受けた部位だけでなく「脳全体」で低下する。
- グリンパティックの排出力は“睡眠中”に最大になる。
- 脳卒中の回復と認知機能の維持には、グリンパティック機能の回復が不可欠。
✅結論として言えること:
脳卒中後は、脳の「そうじ力」=グリンパティック機能が落ちている状態である。
だからこそ、睡眠という「おそうじタイム」をしっかり確保することが治療の一部と考えるべきである。
💡補足の観点
- これは単なる「休息」ではなく、生理的な洗浄プロセスの支援である。
- グリンパティック機能は横になっている姿勢で高まるという研究もあり、十分な睡眠・静養をとることが理にかなっている。
- 睡眠薬や鎮静剤の使用には慎重さが必要だが、自然な深い睡眠を促す環境づくり(静音、暗室、冷涼な温度、一定の睡眠スケジュールなど)は推奨される。